top of page

橋の下の隠れ家で、食とアートの融合を味わう水都・大阪の老舗フレンチ「ルポンドシエル(LE PONT DE CIEL)」

更新日:2月25日



開業50年を迎える老舗フレンチレストラン「ルポンドシエル(LE PONT DE CIEL)」が、大阪・淀屋橋に2022年12月にリニューアルオープンしました。お店のコンセプトは「食とアートの融合」。現代アートのコレクターとして知られる大林剛郎氏(株式会社大林組取締役会長)が収集した大林コレクションの作品の数々が店内に展示される、秘密の「隠れ家」のようなお店を訪ねてみました。





中之島エリアの一角で誕生した「天架ける橋」

1973年、大手ゼネコンの株式会社大林組が当時西日本初となる地上30階の高層ビル、大阪大林ビルを建設した際、「眺望を楽しんでほしい」と最上階にフレンチレストランを設けたのがお店の始まりでした。


建物は中之島の東の端、天神橋のすぐ目の前に位置していました。中之島は、大阪市北区を流れる堂島川と土佐堀川の間にある東西およそ3kmの中州を指します。川沿いの緑豊かなプロムナードやバラ園、歴史的建築や美術館などが建ち並ぶ、文化の香りあふれる美しい景観のエリアです。

店名の「ルポンドシエル」は、「天に架ける橋」という意味のフランス語。中之島の眺望の美しさと、天神橋の「天」から名付けられたそうです。


2007年、お店はビルの向かいにあった旧大林組本店ビルに移転。1926年に建てられたスパニッシュ様式の建築の1階で2022年まで営業しました。


*一時期お店があった旧大林組本店ビルは、現在「ルポンドシエルビル」と名称を変更。歴史的建築物として保存され、大阪都市景観建築賞などを受賞。毎年秋に開催される「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」の期間のみ一般公開されています。こちらも、「ルポンドシエル」の歴史の一幕を知るスポットとしてぜひ訪れたい建築です。





「橋」へのオマージュにあふれた新店舗

2022年12月、お店は現在の場所、淀屋橋のたもとに新しくできた地上25階建ての日本生命淀屋橋ビルの地下に移りました。地下鉄・京阪それぞれの地下改札と直結し、駅からは徒歩数分という好立地です。ルポンドシエル株式会社代表取締役社長の岡部清雄氏は新しいお店のイメージを「橋の下にある隠れ家的な空間」と表現しています。


「実は、外観にも橋があるんですよ」と話す岡部氏の視線をたどると、正面玄関の斜め上、お店のファサードに、土佐堀川に架かる淀屋橋の外観がそのまま再現されていました。さらに、駅構内からお店に続く半地下部分の通路の幅は、淀屋橋の橋幅ときっちり同じ36.5メートル。橋へのオマージュが随所に見られ、コンセプトが一貫しています。


橋をイメージしたファサード(左上)



店舗入り口から、アート作品がお出迎え

新天地でスタートしたルポンドシエルの新たなコンセプトは「食とアートの融合」。入店前から、そのコンセプトはすでに現れていました。


正面玄関の手前にぽつんと佇む人影。これはイギリスの彫刻家、アントニー・ゴームリー(1950〜)が2008年に制作した《Another Time Ⅳ》という作品です。石こうで自身の身体の型を取り、鉄を流し込んで造られています。近づくと、時間の経過で生まれた錆の風合いが作品により深い印象を与えています。


アントニー・ゴームリー《Another Time Ⅳ》(2008)



白いカーテンに閉ざされたガラス張りの店内に入ると、ウェイティングルームを兼ねた小さなギャラリー「THE BRIDGE」がありました。アートとゲストの橋渡しをする空間として、東京・大阪などのギャラリーと提携し、3カ月ごとに展示作品を入れ変えているそうです。訪れた11月初旬には、大林コレクションの中から岡本太郎《娘と犬》(1953年)、元永定正《無題》(1944年)の2作品が展示されていました。




“経年優化”の空間に浮かび上がる、現代アートの数々

インテリアは白を基調とした空間の中に、木や石、金属などの自然素材を使っています。岡部社長は、「私たちのレストランでは『経年優化』というコンセプトを掲げています。自然素材は20年、30年と時間が経つにつれて変化していきますが、経年により朽ち果て『劣化』するのではなく、むしろ素材の風格や味わいが増し『優化』すると考えています」と話します。


ワインセラーの壁面は、「経年優化」を狙って

店内は14席ある広いカウンターのオープンキッチンと、完全に分離した4つの個室があります。個室は小さな子どもも利用できるとのこと。フレンチのお店では「小学生以下はお断り」のところが珍しくありませんが、独立した個室を設けたことで、家族で利用できるのは嬉しい魅力です。


石畳のある廊下の照明はトーンダウンされていて、静寂の中で靴音だけがコツコツと響きます。天井部分はアーチ型になっていて、折れ曲がった廊下を行くうちに、修道院のラビリンスに迷い込んだような気分になります。個室の扉は大きな木の一枚板。中には高いドーム型天井の空間が広がっていました。



暗い廊下の壁面に浮かび上がるように現れたのは、具体美術協会(GUTAI)に所属した作家、元永定正、松谷武判の作品。また、個室には同時代を生きた高松次郎、山口長男、斎藤義重らの作品が展示されます。いずれもキャプションはついておらず、作品は空間の一部として溶け込んでいます。


松谷武判《2ツの芽》(1984年)レンガと左官仕上げの漆喰壁に



斎藤義重《赤の作品》(1972年)




具体美術協会と中之島に存在した画廊「グタイ・ピナコテカ」

1960〜70年代に美術界で一大旋風を巻き起こした具体美術協会(GUTAI)は、中之島と深い縁があります。


GUTAIは1954年、前衛画家、吉原治良が中心となって結成した前衛アートのグループ。「我々の精神が自由であるという証を具体的に提示したい」と標榜し、アートの概念を打ち砕くようなパフォーマンスなどで人々を驚かせました。中之島の一角にメンバーが定期的に展覧会を開く画廊、グタイ・ピナコテカを開設。1970年の大阪万博では、彼らの作品が数多く展示され、万博終了後に大林組がそれらを買い取ったことが、現在のコレクションのきっかけになったそうです。


時は移り、グタイ・ピナコテカがあった場所には、三井ガーデンホテル大阪プレミアが建っています。一方で、2000年代以降、GUTAIの作品は国内だけでなく海外で再評価され、注目は高まるばかり。かつて中之島を表現の場としていた作家たちの作品が大林組のコレクションに収まり、大阪・関西万博を目前に控えた今、再び同地にほど近い「ルポンドシエル」に展示されていることに、深い縁を感じます。

*ホテルのロビーに「グタイ・ピナコテカ跡」の説明プレートが残されている





クリエイティビティに富んだキッチンで、食とアートの融合を実践


食の期待が高まる、薪窯を備えたオープンキッチン

オープンキッチンの入り口に展示された作品《TEE BOWL》は躍動感にあふれ、強い存在感があります。店内の展示作品の作家の中で一番の若手、陶芸家の桑田卓郎(1981〜)の作品です。


桑田卓郎《TEE BOWL》(2021年)

キッチン内に入ると、そこには驚くような新しい仕掛け、薪窯のオーブンが。店内をプロデュースした小山薫堂氏の提案によるものです。薪窯はガスや電気とは異なり、持続可能なエネルギーとして世界的に注目されているだけではなく、薪が燃えるときのパチパチという音や、赤い炎が料理を包み込む様子は、料理への期待をかきたててくれます。


薪窯のあるオープンキッチン

キッチン側の床はお客様の視線に合うように低くなっており、カウンター側から調理するシェフの手元がよく見えるように設計されています。室内全体が、食とアートの融合を五感で体験できる舞台となっているのです。

*放送作家として伝説のテレビ番組「料理の鉄人」の企画や、「くまモン」をプロデュースした人物。2025年大阪・関西万博で食のテーマ事業のプロデューサーに任命されている。




シェフの豊かなインスピレーションで、アーティストとのコラボや独自のレシピを実現

総料理長を務める小楠修シェフは、現代美術家である日比野克彦氏のギャラリー展示に合わせた特別メニューを考案したことがあります。ワインラベルに描かれた日比野氏の抽象画を参考にレシピを興すのには、ずいぶん悩み苦労されたとか。


現代美術家・日比野克彦によるワインラベル

ふだんは固定メニューをあえて作らず、その時々の素材から得られるインスピレーションで調理をするのが小楠流。ただし、お客様に人気でどうしても変えられないメニューが一つあるそうです。「レギューム」という野菜のお料理。素材を泡状にしたビネガーでつなぎながら立体的に高く盛り付けられており、アート作品を鑑賞するように見入ってしまう美しさです。お客様からは「一口ずつ味が違うので驚いた」「季節によって野菜が変わるので毎回楽しめる」という声が寄せられます。


お客様に人気の「レギューム」

想像力膨らむ接客で、お客様とアートの橋渡し役に

お客様の多くは、家族の記念日など特別な日を祝うために利用されるそうです。アートに関心の高い方もおられるようで、そんな時は支配人の田中健二氏がお客様とアートの橋渡し役をするのだそうです。


小菓子を載せていた陶器を指して「どちらの作家さんのもの?」と尋ねられたあるお客様。

田中支配人が「陶芸家の辻村塊さんものです」とお答えしたところ、「お父様の辻村史朗さんを知っています。作品が好きなんですよ」と嬉しそうな表情をされたとか。


ギャラリーにある難解な現代アート作品について、説明を求められることもしばしば。田中氏はそんな時、説明は簡単なことだけにとどめておくそうです。「ちょっとしたヒントをお伝えするだけでお客様の想像力が膨らみますから」と。お客様とアートの橋渡し役を担い、感動を呼ぶお店、ルポンドシエル。大切な人を連れて、アートを鑑賞するように創作フレンチを味わいにきてみてください。




ルポンドシエル(LE PONT DE CIEL)

住所

京都市東山区八坂通大阪市中央区北浜3丁目5番29号 日本生命淀屋橋ビル B1

電話番号

  • 問い合わせ:06-6233-5005

  • 予約専用:050-5463-5390

営業時間

  • ランチタイム11:30~(ラストオーダー13:00)

  • ディナータイム17:30~(ラストオーダー19:30)

定休日

日曜/月曜/祝日

留意事項

全面禁煙 【ドレスコード】 ランチタイム:スマートカジュアル

ディナータイム:スマートエレガンス。 男性のTシャツ、ハーフパンツ、サンダルなどの軽装での来店は不可

公式Webサイト


bottom of page