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生きることは表現。釜ヶ崎と出会い、学び合う|ゲストハウスとカフェと庭「釜ヶ崎芸術大学」

更新日:1月31日


観光拠点として人気が高まる、大阪のディープサウス「新今宮」。かつて日雇い労働者でにぎわった、通称「釜ヶ崎」の昭和レトロな商店街の一角に、ゲストハウスとカフェと庭「釜ヶ崎芸術大学」があります。

ゲストハウス?大学?ここはゲストハウスでありながら、開かれた「出会いと表現、学び合いの場」。釜ヶ崎の街を芸術大学に見立て、地域の人たちと共に学び合う講座を連日開催。国内外からの旅行者だけでなく、釜ヶ崎に暮らす高齢者や外国人労働者、アーティスト、研究者などさまざまな人が訪れる場所なんです。




労働者の街から観光の拠点へ

JRや南海、Osaka Metroが乗り入れる、新今宮エリアの南側、西成区萩之茶屋あたりは、通称釜ヶ崎と呼ばれ、かつて日本最大の日雇い労働市場がありました。高度経済成長期には、1970年の大阪万博などの建設現場で働く人たちが全国から集まり、活気があふれていました。低料金の簡易宿所が数多く立ち並び、ドヤ街(日雇い労働者の街)を形成。バブル崩壊後、仕事を失って路上生活を余儀なくされた人たちが増え、大きな社会問題になりました。治安が悪化し「釜ヶ崎は怖い」というマイナスのイメージが生まれましたが、官民が連携して労働者の支援と福祉に取り組み、2013年に始まった西成特区構想などにより街は大きく変わりつつあります。


外国人旅行者が急増し、かつての簡易宿所はホテルやゲストハウスにリノベーション。新今宮は、通天閣がそびえる新世界や天王寺公園、あべのハルカスなど大阪を代表する観光スポットが近く、交通アクセスも良いため観光の拠点として注目されています。




釜ヶ崎を体感する「ゲストハウスミュージアム」

ゲストハウスとカフェと庭「釜ヶ崎芸術大学(略して釜芸)」が、釜ヶ崎の動物園前商店街にオープンしたのは2016年。昭和の趣が漂う居酒屋や商店が軒を連ねる中、カラフルな外観がひときわ目を引きます。



リサイクル品が所せましと並ぶエントランスを抜けると、天井を埋め尽くすように書の作品が展示され、3階建のゲストハウスはまるごとアート空間。壁や階段、トイレなども意匠を凝らしたペインティングで装飾されています。これらは全て釜ヶ崎に暮らす日雇い労働者や宿泊したゲスト、アーティスト、ボランティアらが協働してつくったそう。






「ゲストハウスのふりをしていますが、ここはさまざまな人と出会い、表現し、学び合う場。釜ヶ崎を体感できるゲストハウスミュージアムと思って過ごしてもらえれば」と、釜芸を運営するアートNPO法人「こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」の代表で詩人の上田假奈代さん。




“表現・芸術と社会問題は地続き” 釜芸が誕生するまで

上田さんは、 2003年に大阪市の現代芸術拠点事業として、新世界のフェスティバルゲートで「表現と自律と仕事と社会」をテーマに「ココルーム」を設立しました。喫茶店の形で表現やアートに触れるきっかけをつくる中で、ホームレスの人たちと出会い、2008年に釜ヶ崎へ移転。「生きることは表現だ」をモットーにワークショップなどを行い、2012年に地域の人たちと共に学び合う「釜ヶ崎芸術大学」を開講しました。


上田さんが釜ヶ崎に飛び込んだのは、「表現や芸術は誰か特別な人のものでなく、例えば家のない生活をする人々と地続きだと思っていた」から。


「ココルームを始めた頃、釜ヶ崎の自転車屋さんで詩の朗読をしたんです。そうしたらおじさん(上田さんは日雇い労働者を、親しみを込めてそう呼ぶ)がスポーツ新聞に私が朗読したフレーズを黒マジックで書いて、『今の良かったで』と渡してくれてびっくりしました。そんなビビッドな反応をしてくれた人は初めて。ホームレスの人たちには関わるなという人もいましたが、芸術に肩書きなど関係ありません。この街にはピュアな芸術の源泉があるんではないか、面白いなと思いました」

上田假奈代さん(アートNPO法人「こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」代表)

ゲストハウス3階の一角にある「線の間」 あいりん労働福祉センターが閉鎖された2019年3月31日、 般若心経が書かれた段ボールがセンター内で捨てられていくのを見つけ、上田さんはここに飾った

釜芸に滞在したドイツのアーティストTONAが残した作品。子どもたちの写真を撮り、街中に描いた。「釜ヶ崎に子どもがいることを知ってほしい」と思いを込めたという




詩、哲学、天文学、書道― テーマは多様

地域の人たちとつくってきた釜芸

詩の講座

釜ヶ崎芸術大学は、釜ヶ崎の街を大学に見立て、「学び合いたい人がいれば、そこが大学」をキャッチフレーズに地域のさまざまな施設で、年間約100講座を行っています。テーマは詩や哲学、天文学、書道、合唱など。誰でも参加でき、一度参加すればみんな釜芸の同窓生。学生の数はこの10年間で1万6000人に上ります。


「釜ヶ崎芸術大学は、釜ヶ崎のおじさんたちとつくってきました。釜芸の校風は、のびのびと自由に過ごすということ。おじさんたちはいつも新鮮な学びをされます。家出やギャンブル、アルコール依存などいろんな事情を抱えていても、その場を信じて自分を開いた時に見せてくれる表現は本当に素晴らしくてユニークで尊い」と、上田さんは話します。


俳句の合作塾で生まれた作品

お坊さんを講師にお招きし、講座・Death 「死にたい」と生きる を開催

釜ヶ崎芸術大学の成果発表「釜ヶ崎オ!ペラ」

夏祭りで合唱を披露(撮影:矢野大輔)



ヨコハマトリエンナーレや大阪関西国際芸術祭など

全国の展覧会に出展

ヨコハマトリエンナーレの展示(撮影:田中雄一郎)

美術家の森村泰昌さんがレーニンに扮した作品を釜ヶ崎で撮影した時に、ホームレスの人たちがエキストラとして協力した縁で、森村さんも2013年に釜芸の講師を務めています。

2014年には森村さんがアーティスティック・ディレクターを務める「ヨコハマトリエンナーレ2014」に釜ヶ崎芸術大学として作品を出展。上田さんと釜芸の学生約50人が横浜に出かけ、茂山千之丞さんとの創作狂言や詩の朗読、炊き出しカフェなどの出張イベントを行いました。


「ヨコハマトリエンナーレに出展して以来、アート界からの見方が変わったように思います。大阪関西国際芸術祭をはじめ、毎年のようにどこかの展覧会に招かれるようになりました。」

2015年には森村さんによって釜芸大学院美学学会も開設されました。







森村泰昌×釜芸生で内装を手がけたゲストルームは必見

森村泰昌さんと釜芸最古参の坂下範征さんがコラボしたゲストルーム「Our Sweet Home」

釜ヶ崎芸術大学の拠点となるのがゲストハウスです。

ゲストルームは建物の2階と3階。おすすめは、何といっても美術家の森村泰昌さんと元日雇い労働者で釜芸最古参の坂下範征さんがコラボした、スペシャルツインルーム「Our Sweet Home」(2階)です。森村さんの展覧会や作品のポスターと、ユーモラスな語りでリサイタルも行う坂下さんの言葉を書にした作品によるインスタレーションともいえる部屋は一見の価値があります。



「Our Sweet Home」には夢日記が置かれている。 「この部屋で、どんな夢を見るのかなと思って」

また、シングルルームの「詩人の部屋」(3階)は、詩人の谷川俊太郎さんがこの部屋に滞在し、作った詩「ココヤドヤにて」が展示され、泊まった人がその詩の続きをつづるようになっています。このほか、釜芸ゆかりの画伯や詩人、俳人の部屋やドミトリーなど全部で35ベッド。

宿泊客は一人旅や家族連れなどさまざまです。外国人も多く、数カ月から1年近く滞在する人もいます。子どももウェルカムなので、一度親子で宿泊した後、小学生の子どもたち3人だけで卒業旅行に泊まりに来たケースもあるそうです。





釜芸名物の「まかないご飯」

誰でも受け入れる、多様な出会いの場

多様な出会いが生まれるように、1階には誰でも立ち寄ることのできるカフェと庭があります。カフェでは昼と夕方、みんなで大皿料理を囲む「まかないご飯」が人気です。宿泊している外国人旅行者も通りすがりの観光客、地域に暮らす高齢者やスタッフも同じテーブルを囲み、料理を回したり、雑談をしたり。人手が足りない時は、お客さんが自然と食器を片付けだすのも、交流の一つかもしれません。


カフェに面して広がる約70坪の中庭は、釜ヶ崎の人たちが手入れを行い、バナナや芭蕉、フランスイチジクなど珍しい植物が植物園のように茂っています。庭の奥には、なんと昔ながらの井戸が!

庭の奥に突如現れる井戸

「命の水について考えよう」と、2019年に国際NGOペシャワール会で井戸を掘っていた蓮岡修さんの協力を得て、釜ヶ崎の日雇い労働者の人たちから掘り方を学びながら、井戸を掘るプロジェクトが行われました。子どもや外国人の宿泊客、障がいのある人、難民など700人がスコップを手に井戸を掘り進め、半年かけて完成したそう。


「蛇口をひねれば水が出る便利さを見つめ直す一方で、高度経済成長の日本を支えてきた釜ヶ崎のおじさんたちを先生に熟練の技を学びたいと思いました。最近、釜ヶ崎の街がきれいになったねと言われますが、釜ヶ崎は怖いというイメージにふたをするかのように、ここで生きてきた人の存在や街の歴史までなかったことにはされたくない。みんなで井戸を掘って、その体験を記録に残そうと思ったんです」

井戸掘りの様子




人生劇場の宝庫・釜芸で、価値観が揺さぶられる面白い体験を

「本間にブックカフェ」

ゲストハウスの一角には「本間にブックカフェ」を併設。誰でもなれる「日替わり店長」が本を選んでおもてなしするユニークな仕組みで、宿泊客がカウンターに立ち、地域の人とのおしゃべりを楽しむこともあるそう。代金を寄付する「恩贈りチケット」もあり、小さな贈与経済が働いています。

ゲストハウスの魅力は、「ここで偶然居合わせた人とコミュニケーションすることが一番面白い。みなさんに釜ヶ崎と出会ってほしい」と、上田さん。

日々、人生劇場が繰り広げられる釜ヶ崎芸術大学で、これまでの価値観を揺さぶられるような面白い体験をしにきませんか。






ゲストハウスとカフェと庭「釜ヶ崎芸術大学」

住所

大阪市西成区太子2-3-3

電話番号

06-6636-1612 (9時~21時)

チェックイン

15:00~22:00

​チェックアウト

10:00

公式Webサイト


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