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造船所跡地で生まれる現代アート|アーティストが活動拠点とする北加賀屋の今

更新日:2023年12月18日

1970年代まで造船業で賑わった大阪市西部のベイエリアの街、住之江区北加賀屋が、現在アートの熱気高まる街として注目されています。古い造船所跡地が若いアーティストの作品発表の場となり、リノベーションされた文化住宅は人々の出会いの場となりました。大阪駅から北加賀屋まで地下鉄で20分。秋晴れのもと、海風を感じる街を巡ってみました。




地域のお祭り「すみのえアート・ビート」を毎秋開催


《ラバー・ダック》は北加賀屋が日本のホームタウン

11月5日、「すみのえアート・ビート」が開催されました。今年で10回目。地元の不動産会社・千島土地株式会社と住之江区役所、地域・アートの団体などの協力で開催されるアートのお祭りです。会場は、およそ4万㎡におよぶ旧名村造船所大阪工場の跡地。来場者は年々増加し、今年は大阪万博のキャラクター「みゃくみゃく」も来場。地元の家族連れや遠方から駆けつけたアートファンなど、約1万人で賑わいました。


フレンティン・ホフマン作・《ラバー・ダック》

最初に出迎えてくれたのが、海に浮かんだ高さ9.5mの巨大な≪ラバー・ダック≫。真っ青な空の下に黄色い物体がどーん。近くで見るとすごいインパクトです。オランダの作家、フロレンティン・ホフマンの作品で、ヨーロッパはじめ世界各地の海や川に出現する人気の高いパブリックアートです。じつは日本のホームタウンが、ここ北加賀屋。というわけで、同イベントには毎年出現し、上空ではドローンのアヒルが足をバタバタさせながら飛びまわりました。




会場の至るところにラバー・ダックを発見


映像作家・林勇気の作品

4階建ての旧総合事務所棟の2階では、マーケットやワークショップ、地元高校生らの作品を展示。さらに、映像作家、林勇気の作品が不思議な空間を創り上げていました。

この日、普段立ち入ることができない3階、4階部分の内部が特別公開され、「住之江のまち案内ボランティアの会」の皆さんのガイドで、北加賀屋のまちや名村造船所の歴史を教えてもらいました。





名村造船所大阪工場跡地からクリエイティブセンター大阪へ

大正から昭和にかけての大阪は、「東洋のマンチェスター」と呼ばれた世界有数の工業地帯。度重なる戦争で船舶需要が高まり、北加賀屋の木津川河口周辺にはたくさんの造船所が生まれたそうです。その中の一つが株式会社名村造船所でした。戦後の北加賀屋は、名村をはじめ3つの造船所で2万人もの人が働き、活気にあふれていたといいます。

しかし、1970年頃を過ぎると造船業は下火に。造船所は次々姿を消し、名村造船所もついに1972年、大型船舶を造るため佐賀県に移転が決まりました。跡地にはドックや工場、クレーンが残されたままとなります。見学した旧事務所棟4階はかつての船の製図室で、広い空間の床一面に製図の跡が残されていました。






4階製図室

床に残された製図の跡


街の歴史を知る「造船所跡地ウォーク」



近代化産業遺産を地域活性化の拠点に

名村造船所大阪工場跡地に誕生したクリエイティブセンター大阪(CCO)

防潮堤のウォールアートはギリシア人アーティスト“b.”による作品《b.friends on the wall》



名村造船所が去った後、2004年に30年先を見すえたアートプロジェクト「NAMURA ART MEETING」が開催されたことをきっかけに、地権者の千島土地株式会社は、その地を芸術文化の発信拠点にしようと決めました。2005年、造船所跡地の一部をクリエイティブセンター大阪(CCO)としました。

2007年に大きな転機が訪れます。名村造船所跡地が、「近代化産業遺産群」(全国33カ所)の一つに選ばれたのです。これをきっかけに、プロジェクトはさらに発展し、地域も巻き込んで、「すみのえアート・ビート」の前身イベントがスタート。さらに、千島土地株式会社が2009年に「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」を提唱。地域の空き家や空き物件をアーティスト・クリエーターに提供して自由に改造してもらったり、倉庫や大型物件を創作活動の拠点に活用してもらったりする取り組みが始まります。


2011年には千島土地株式会社が一般財団法人おおさか創造千島財団を設立し、アーティストの創造活動に対して公募助成事業も始めました。これらの取り組みを経て、街はアートを通じて人が集まる街へと変化を遂げていきました。





若手から巨匠まで、現代アーティストの作品を鑑賞


若手アーティスト・クリエイターの制作スタジオ「Super Studio Kitakagaya(SSK)」

イベント会場を後にし、北加賀屋をぶらりと街歩き。10月末から11月上旬のこの時期、北加賀屋ではいくつものアートイベントが開催されていました。


CCO前の通りをはさんで左手には2020年にオープンしたシェアスタジオ「Super Studio Kitakagaya(SSK)」が。ここでは入居する16人のアーティストやクリエイターの作業場が一般公開されていました。天井の高さ7m、延べ床面積830㎡の巨大空間はかつて名村造船所の倉庫だったとのこと。創作現場を見学できるなんて、アートファンにはたまらない体験です。



有名作家の作品収蔵庫「MASK」

持田敦子《Steps》 photo by Ai Nakagawa

さらに南に行くと、巨大アート作品収蔵庫「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」があります。宇治野宗輝、金氏徹平、久保田弘成、名和晃平、持田敦子、やなぎみわ、ヤノベケンジなど、7名の著名な現代アート作家の収蔵作品が一挙公開されました。見どころは、今回のメインアーティスト・持田敦子の作品《Steps》 。空中に延びる鉄管で作られた階段のインスタレーションで、今後の展開が期待されます。

大阪中之島美術館の《SHIP’S CAT》や兵庫県立美術館裏手の《Sun Sister》など、デカかわいい屋外彫刻でおなじみ、ヤノベケンジの《Sun Child(No.2)》(2011年)にも出会えました。



MASK ヤノベケンジの作品 photo by Ai Nakagawa


森村泰昌の個人美術館「モリムラ@ミュージアム」

大阪市出身の美術家、森村泰昌の個人美術館、M@M(モリムラ@ミュージアム)では開館5周年を記念する展覧会「TAKE5」が開催中でした。森村作品と言えば、歴史上の人物などに扮したセルフポートレートが有名ですが、展覧会でもコロナ禍の社会を風刺した作品《マスクをつけたモナリザ》シリーズなど、過去5年間の展示作品から21作品が展示されていました。「クスッ」と笑える作品の奥底から、強いメッセージが伝わりました。







北加賀屋の街の変化とこれから


アートは地域を発展させる力がある

KCV構想の取り組みの中で、北加賀屋は大きく変わったそうです。

千島土地の宇野好美さんによると、「現在、北加賀屋ではおよそ130名のアーティストやクリエーターが、ギャラリー、カフェ、アトリエ、コミュニティスペースなど約40の拠点で活動をしています」とのこと。宇野さんは「住む方がいる限り、まちづくりに終わりはありません。北加賀屋にその時必要なものを都度考えながら、人を大切にしたまちづくりをしていきます」と話しています。



空き家が居心地の良い文化複合施設に

千鳥文化

北加賀屋の変貌を象徴する建物が「千鳥文化」です。築60年の古い文化住宅をリノベーションし、食堂、ギャラリー、テナントが入る文化複合施設としてよみがえりました。かつて造船業に携わった方々が暮らした記憶をできるだけ残すようリノベーションされており、経年で風合いが生まれた外観はほぼそのままです。



1階のガラス張りのアトリウムには、ダッチパンケーキが人気のカフェ「千鳥文化食堂」とバー、ギャラリー、その他4つのテナントが入っています。今年6月には本を通じた交流スペース「千鳥文庫」がオープンし、地域の人の思わぬ出会いも生まれているそうです。 2階にはチョークアート教室やミシン工房など5つのテナントが。アート作家、金氏徹平が部屋全体を作品化した「部屋プロジェクト」の部屋と、伝説のアングラ劇団、劇団維新派の映像や台本などが閲覧できる「維新派アーカイブス」の部屋は、常時公開されています。


部屋プロジェクト photo by Ai Nakagawa


街で見つけた多様なパブリックアート

街歩きの楽しみの一つが、30以上あると言われるパブリックアート。工場の壁や民家の塀。あんなところ、こんなところにもフォトジェニックな作品が見つかります。


「未来の植物」をコンセプトとした《New Generation Plant》はきゃりーぱみゅぱみゅのアートディレクターとして知られる増田セバスチャンの作品。本作は老人ホーム横の庭にあります。KAWAIIパワーが利用者をもっと元気にしてくれるかもしれません。

増田セバスチャン《New Generation Plant》

酒谷星子《A BOY》

駐車場前の壁面に描かれた巨大な人物《A BOY》はイラストレーター酒谷星子の作品。ここに車を停めたら、つまみ上げられてしまいそう。建物の外に突き出たコーヒー焙煎のダクトから、ぴょーんと飛び出すマリオ。フランスの作家、oakoakの作品です。彼の手にかかれば、閉まったシャッター、古いブロック塀さえもが作品の一部になってしまいます。



oakoakによるスーパーマリオ

作品を観ていると、地域の方が他の作品も案内してくれました。「パブリックアートを探しに来る方は多いですよ」とのこと。案内に従い路地を進むと、oakoakや、borutanext5による作品が出現。壁一面に描かれたカラフルな壁画は、観ているだけで気持ちが明るくなります。



borutanext5によるカラフルな壁画



工場をリノベーションした「カフェ ナムス」

歩き疲れてきたところで、加賀屋小学校のそばに見つけたのが「カフェ ナムス」。工場をリノベーションした建物で、コンクリートの壁、モノトーンの家具がマッチしたスタイリッシュなお店です。店内ではアート作品が展示されるほか、アパレルアイテムも販売されており、食事しながらゆっくり滞在できます。壁を彩る色鮮やかな抽象画が美しい。人気メニューは塩ラテだそう。駅からも近く、おすすめの休憩スポットです。



塩ラテ

店内にはアート作品が展示



地域一帯でアーティストの制作環境を支える

おおさか創造千島財団のWebサイトでは、2009年から街を変えてきたKCV構想 のさまざまな取り組みを振り返ることができます。千島土地の取り組みについて現代美術家ヤノベケンジはこんなメッセージを寄せています。


「MASKの巨大な倉庫に作品を置かせてもらってから、自分が保管する限界であるとか、展示する美術館の限界を超えるようなスケールで物事を考えられるようになって、自分の空想、妄想自体もどんどん広がっていっている。ここの場所が創造力をどんどん拡大させる原点になっている」


出典;KCV構想 紹介映像「北加賀屋のまちづくり~芸術・文化が集積する創造拠点へ~」


アートが街を活況にし、街がアートの制作環境を発展させていく。そこに北加賀屋の魅力があるのかもしれません。





モリムラ@ミュージアム

住所

大阪府大阪市住之江区北加賀屋5-5-36 2F

電話番号

06-7220-6985 (開館中のみ受付)

開館時間

12:00~18:00(金・土・日・祝日のみ。最終受付17:30)

休館日

展覧会開催中のみ開館

※2023年12月17日(日)~2024年1月18日(木)は休館

入館料

一般・大学生 600円/高校生・中学生 200円/小学生以下 無料

公式Webサイト



千鳥文化

住所

大阪府大阪市住之江区北加賀屋5-2-28

電話番号

06-7505-5189

営業時間

食堂11:30~18:00・バー18:00~23:00

定休日

火曜日・水曜日

公式Webサイト


カフェ ナムス(cafe NAMS)

住所

大阪府大阪市住之江区北加賀屋2-5-31

電話番号

06-7777-3294

営業時間

平日 11:00〜21:30 (Food Lo.20:50 Drink Lo.21:00) 土・日・祝 11:00〜22:00(Food Lo.21:15 Drink Lo.21:30)

定休日

木曜日

留意事項

全席禁煙、ペットは店内1階のみOK(※日曜のみ)

公式Webサイト


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