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ヤノベケンジ《生命の旅》壮大な命の軌跡と未来が紡がれた大阪空港駅のパブリックアート

更新日:4月16日


ヤノベケンジ《生命の旅》

大阪モノレールの大阪空港駅で2024年3月20日から、現代美術作家のヤノベケンジ氏(1965〜)が原画・監修を務める大型ステンドグラス作品《生命の旅》が公開されています。この作品は、公益財団法人日本交通文化協会と大阪モノレール株式会社が、一般社団法人日本宝くじ協会の「社会貢献広報事業」の助成を受けて企画・制作されたものです。2025年の大阪万博を見据え、多くの旅行者が行き交うターミナルで人々を見守る存在として、また地域の観光を盛り上げるパブリックアートとして、期待が寄せられています。

(取材・文:石垣 久美子)





70年代万博のDNAを受け継ぐアーティスト

ヤノベケンジ氏

ヤノベ氏は、大阪生まれ大阪育ちで、現在も大阪を拠点に活動をする生粋の大阪人。幼少期は70年万博の跡地を遊び場にしていたといいます。


ヤノベ氏は《生命の旅》除幕式の挨拶で「万博跡地に放置されたロボットや取り壊されたパビリオンがまるで未来の廃墟のようだったので、このロボットはどんな人が操縦していたんだろう?どんな町があったのだろう?と物語を妄想していました。想像力を膨らませてものを創ることを知ったのはこの頃からなので、70年代万博の遺伝子がアーティストとしての自分を育んでいったといえるかもしれません」と語りました。




《生命の旅》はエネルギーと光に満ちた作品

《生命の旅》を目にする人々は、恐らくその大きさと作品のエネルギーに圧倒されることでしょう。

縦2.18メートル、横12.38メートルにもなる巨大なステンドグラス作品に描かれているのは、人々を環境破壊や疫病、危機から守る守り神のようなキャラクターたち。


中央《SHIP'S CAT》(2017年~)。両脇に描かれているのは紛争や感染症から世界を守るキャラクター《KOMAINU―Guardian Beasts―》(2019年)

ヤノベ氏の代表作である《SHIP'S CAT》(2017年~)は、人間とともに船に乗った「船乗り猫」がモチーフ。猫はネズミから貨物を守り疫病を防ぐだけでなく、長い船旅で人々の心を癒してくれる存在でもありました。現代という危機の時代にも、人々の旅を守り導く存在であってほしいという願いが込められています。


中央《LUCA号》(2024年)

2024年に発表された《LUCA号》は、岡本太郎の《太陽の塔》をオマージュしたキャラクターです。

生命の起源が宇宙からもたらされたというパンスペルミア説になぞらえ、「遠い昔、ビッグバンとともに地球に生命を運んできた宇宙船」という設定です。宇宙船には猫の祖先にあたる宇宙猫が乗っているそうで、生命の起源と神秘をユーモアたっぷりのストーリーで描いています。


ポップで可愛らしいキャラクターを通して描かれるのは、明るい世界だけではありません。


「生命が誕生してからというもの、生物は環境問題や疫病、紛争といった危機に幾度も直面しては乗り越えてきましたが、それは当たり前のことではない。《生命の旅》は生命の起源という奇跡とともに、もしかしたらこの先、人類が引き起こしてしまうかもしれない」という地球滅亡への警鐘も込められています。




職人たちの熟練の技が光るステンドグラス作品

絵付けしたガラスを専用の窯で焼き付ける

《生命の旅》を製作したのは、静岡県熱海市にある「クレアーレ熱海ゆがわら工房」に所属する7名のステンドグラス職人です。


ガラスの微妙な厚みや透明度を調整することで、原画に描かれたキャラクターの立体感や遠近感をステンドグラス作品に “翻訳” していったといいます。


「クレアーレ熱海ゆがわら工房」では、ステンドグラス作品に新しい解釈と価値を加えていく工程を “翻訳” と呼ぶのだそうです。


特に印象的なのは、ガラスを重ねて溶かし付けたというキャラクターの瞳の輝きです。立体感と存在感のある瞳は、キャラクターの感情や温度を感じさせるようです。


絵付けをするヤノベ氏

猫の毛並みなど、随所にヤノベ氏の手描きも加わり、作家と職人、双方のクリエイティビティが融合しているのがこの作品の魅力です。




《生命の旅》は、52色、2032ピースにも及ぶ多彩なステンドグラスが組み合わされており、日が差し込むことで駅構内をカラフルに染め上げます。



大阪空港と連結する渡り廊下から見える作品の後ろ姿

作品を見る時間帯や、その日の天気によっても見え方が変わります。


作品が一番きれいに見える時間帯は? という質問にヤノベ氏は「いつでも」と答えます。

「この作品は外の渡り廊下からも見ることができるので、夜になれば室内の明かりを通してまた違った姿が見られます。雨の日も雪の日も、楽しい時も悲しい時も人々を癒してくれる存在になるでしょう」




大阪・関西で見られるヤノベケンジ作品について

ちなみに、作品に描かれたキャラクターの実物であるパブリックアートを大阪・関西圏で見ることもできます。

《SHIP'S CAT》とその横で炎を吹く《ジャイアント・トらやん》は大阪中之島美術館に、太陽を手にする《Sun Sister(サン・シスター)》は兵庫県立美術館に、それぞれ常設作品として展示されています。

東日本大震災の復興と再生への願いを込めた《Sun Child (サン・チャイルド)》は、ヤノベ氏が幼少期を過ごした茨木市(南茨木駅前)でその姿を見ることができます。

ぜひ、こちらの記事もご覧ください!


【関西に広がるヤノベケンジのアートスポット総特集】




生命の旅

住所

大阪府豊中市螢池西町3丁目569−3

最寄駅からのアクセス

大阪モノレール「大阪空港」駅改札外 エントランス


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