【2025年大阪・関西万博】中西保裕《潮流》―― 万博の風景を映しだす、ミステリアスな屋外彫刻
- 隼吏 宮崎
- 7月25日
- 読了時間: 4分

旅とアートをテーマに紹介するWEBマガジン「Art Tourism」では、2025年大阪・関西万博会場内に設置された数多くのパブリックアートの中から注目すべきものをピックアップし、記事で共有してきました。
さて、今回ご紹介するのは、中西保裕による彫刻作品《潮流》です。
会場内に設置されたパブリックアートの中でもひときわミステリアスな本作品。万博という舞台でどのように輝くのでしょうか?
中西保裕氏と《潮流》について
彫刻家・中西保裕氏は、長年にわたり「石」という素材と真摯に向き合ってきた芸術家です。
1962年に大阪で生まれ、幼少期から石に触れ育ってきた中西氏は、1981年、四国 香川県庵治町で石材彫刻の基礎技術を習得しました。
その後、家業である石材店を経営しながら、「石に魂を込める」という哲学をもって、数々の作品を生み出してきました。彼の彫刻作品は、それぞれが硬質さの中に、生命の躍動や神秘性を感じさせる独特の個性を持っています。
そんな中西氏の代表作の一つともいえる《潮流》は、2018年に東京国立新美術館で開催された第82回自由美術展でグランプリを受賞した抽象彫刻で、その名の通り「水」のなめらかさと、それがもたらす強いエネルギーを表現したものです。
素材には、御影石の中でも最も硬質とされる黒御影石を選びました。非常にデリケートな鏡面仕上げを要する一方で、その耐久性から屋外環境にも強く、年月の経過による輝きの衰えを最小限に抑えられる特別な素材です。
様々な特性を持つ素材である一方で、その加工は簡単ではありません。
磨き残しや傷など、最終工程まで油断が出来ない中で繊細な仕上げを経ることで、彫刻の表面には独特の表情がもたらされています。
作品の中心に設けられた荒く削られた部分は、周囲の滑らかな曲面と対照をなしています。これは、水が強い圧力によって中央の穴へと吸い込まれていく様を表現しており、上から覗き込むことで、まるでその穴に飲み込まれていくかのような、神秘的でミステリアスな感覚を覚えます。また同時に、その先に広がる広大な未知の空間を感じさせる、ユニークな表現です。
大阪関西万博で《潮流》がもたらす体験
2025年大阪・関西万博という国際的な舞台に設置された《潮流》は、訪れる人々によって異なる鑑賞体験を提供することでしょう。
黒御影石の鏡面仕上げの曲面は、万博会場の多様性あふれる風景をありのままに映し出します。
来場者の賑わい、周囲の建築物、そして刻々と移り変わる空の色や雲の形までが、作品の表面に映し出され、まさに「万博の風景を映しだす彫刻」として機能しています。そして彫刻をのぞき込むと、それらが水の流れによって混ざり合い、一つになるような印象を受けるのです。それはまるで、海に囲まれた夢洲の地に、世界中の多様な文化が集まり、交わりあう「万博」を体現しているようでもあります。
季節、時間、天候によってもその表情を変える《潮流》は、その日ごとに新たな発見を与えてくれます。
晴れた日の青空を映し出す鮮やかな輝き、雨の日のしっとりとした質感、夕焼けに染まるドラマティックな色彩の変化など、万博の風景が織りなすバリエーションは無限です。
そして中心の穴をのぞくと、《潮流》が持つミステリアスな魅力が鑑賞者の想像力を掻き立てるでしょう。穴に吸い込まれるような感覚は、万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」にも通じる、生命の根源や宇宙の深遠さを想起させるかもしれません。そして、その先に広がる「未知の空間」は、来場者に未来への希望や、まだ見ぬ可能性について深く思考するきっかけを与えてくれるのです。
《潮流》はEXPOアリーナにほど近い未来の都市付近に設置されています。お近くに来られた際はぜひ立ち寄って、ミステリアス《潮流》を覗き込んでみてはいかがでしょうか。

